『昭和不老不死伝説バンパイア・近未来不老不死伝説バンパイア』  徳弘正也

昭和不老不死伝説 バンパイア 1 (ジャンプ・コミックスデラックス) [コミック] / 徳弘 正也 (著); 集英社 (刊) 近未来不老不死伝説バンパイア 1 (ジャンプコミックスデラックス) [コミック] / 徳弘 正也 (著); 集英社 (刊)

久しぶりに『EDEN』という漫画を読んだら、

虚無や無常、人間の儚い命の育みを「楽園「というタイトルで綴っていることに

人間の賛歌は幸せなことだけじゃ実感できず、不幸な出来事でこそ実感できるんじゃないかと

メランコリーな気分になったしまった。

そういえば、前に読んだのは震災前だった。

自分のブログでの『EDEN』の記事の日付をみると2009年だ。

いきなり冒頭でそれでも世界は終わらないなどとポエミーなこと

書いているなぁと思ったら、漫画の編集さんが考えたアオリの一文だったが

今となっては、まさにそれでも世界は終わらないわけで。

もうちょっとこの憂鬱な気持ちを引き出してみたいと漫画を探していると

昔一度だけ読んだ『バンパイア』があった。

作者の徳弘正也さんの印象というと、小学校のころは『ジャングルの王者ターちゃん

高校のころは『狂四郎2030』だったりする。

おげれつな作風は、まったく変りなく、

その中心にあるのはドシリアスな世界観というところもまったくお変わりない。

物語は不老不死の女性バンパイアが少年と出会い、

バンパイアを付け狙う相手から逃げ、あるいは戦う物語だ。

バンパイアといってもいわゆる吸血鬼要素は皆無で

不老不死性がクローズアップされた物語で

漫画を漫画で例えるのも変な話だけど

高橋留美子さんの『人魚シリーズ』や

手塚治虫さんの『火の鳥』も八百比丘尼の話が近いと思う。

女性の名前が「マリア」ということでキリスト教の聖母的要素もあり、

「マリア」が不老不死なことから政治的なシンボルに祭り上げられたりして

物語はだんだん政治色を強めていき、日本の現状を皮肉るような内容でもあり

信仰に関する黒い部分もさらけ出す内容になっている。

ターちゃん、狂四郎、さらには個人的には印象深い作者の過去作の

『水のともだちカッパーマン』とこれまでの作品を総括するかのような

言ってしまえば集大成のような印象を受けた。

昭和・近未来と5巻ずつの計10巻でまとめられたが、

なんだか最後のほうは救いがあるのか無いのか

よくわからなくなかったけど人間の欲も誠実さも清濁併せこんだ

密度のある話だったと思った。