『アフターダーク』 村上春樹
村上春樹の作品をちょこっとだが読んできて、
この作品を読み、さらに思ったことは、この作者は無駄に説明をしない。
謎は謎のまま残り、闇にと消えていく。
人物描写も、少なくないはずだが、イマイチ人物がわからない。
今回は心理描写も少なく、個人、個人がわかりにくい。
全体像を、遠い場所にある穴からから覗き込んでいる気分だった。
だけど、その穴が小さいため、全体像を捕らえきれない。
闇の部分が僕の前に広がっている気分だった。
個人がやるべきことを遂行して、
その結果に、物語が出来上がっているという感じを受けた。
そこには、論理もへったくれもなく、
ただそういうこともある、という印象だった。
僕らの世界には薄い壁があり、ちょっとしたきっかけで
その壁の向こうの闇の世界に落ちてしまう。
現実と非現実の壁なんて、どうってことない。
そしてそこから抜け出すことは、難しいかもしれないけど
夜の闇も、太陽が昇れば消えてしまうように
なんてことなく、抜け出せることもあるかもしれない。
だけど、その経過を知っているが、なぜそうなるのかと考えると難しくて、太陽の存在の不思議とか、なぜ地球が自転するのかとか、
考えるとキリがない。
この小説もWHYを考えるとキリがない。
いずれ日が昇り、光が当たっても、闇はどこかで潜んでいる。
「逃げ切れない」と男は言う。
「どこまで逃げてもね、わたしたちはあんたを捕まえる」
帯にもあったこの言葉は、作中ではこんなことだったのかよと
少しがっかりしたが、やはり印象深い言葉だと思った。
どこまで逃げても、その闇はついてまわる。
どんなに日の当たる場所でも、自分の影という闇はついてまわるし
光で見えなくなるだけで、次の闇は、確実に訪れる。
それでどんな小説だったのと、言われると闇の話だと僕は思う。
まあ、タイトルが、アフターダークだからね。
明けない夜はない。覚めない夢もない。
そして、必ず日はまた昇る。
しかし、闇も必ずまたやってくる。