「嫌われ松子の一生」
ただずっと帰る場所をさがしていたんだよね。
そうだよね、松子。
とことん不幸で波乱万丈な松子の人生。
だけど、彼女は幸せだった。
ホントにそうなのだろうか。いや、きっとそうだったんだろう。
そうじゃなければ、悲しすぎる。
とくにその死の理不尽さは、あまりに不条理だ。
この世界に、僕は怒りさえ覚えてしまう。
幸福と不幸など、一枚のコインのようだ。
手を伸ばせば、向こうがわに簡単に届くが、
決してその姿は、見ることができない。
そして、あまりにも簡単にひっくり返すことができる。
だからか、その定義は人の数ほど存在する。
松子が幸せだったというなら、僕は否定はしない。
こんなに悲しい人生を見せ付けられたとしても。
「ダンサー・イン・ザ・ダーク」なみの不幸なミュージカル風。
同じ不幸な話だが、松子はとことん明るく作られている。
演出、映像は、あきれるほどポップで明るく、強い色彩。
音楽も、松子の心情を描きだすのに一役を買っている。
どれもが、救いのない物語に光を刺し込ませている。
主演の中谷美紀さんは、元もすごく綺麗な人だが、
その演出や風景しだいで、とんでもなく美しく見えた。
まげてのばして、
一歩一歩、不器用すぎる足並で進んだ、松子の人生。
誰かに何かをしてあげた、それだけではない。
誰かに何かをしてもらったということも、わかっているだろうか?
かつて、父親は貴方をずっと待っていた。
妹は、最期の最期まで、貴方を信じていた。
かつての恋人は、ずっと死ぬまで貴方を思い続けている。
甥は、貴方の人生を、今辿っている。
1人ぼっちで死んでしまったけど、1人ぼっちじゃないってことを。