「花よりもなほ」
男が男らしく生きると誰が決めたのか。
女が女らしく生きると誰が決めたのか。
では、武士が武士らしくと誰が決めたのか。
それは、時代だったんだろう。
父の仇討ちのため江戸へ出てきた主人公、青木宗左衛門。
だけど弱い。剣術はからきし。しかも臆病。
暮らす場所も、江戸といってもボロボロな長屋。
だけど、そんな場所が妙にしっくりきている。
長屋には個性的な人物が集まって、
その日その日の暮らしを、それぞれの生き方で。
弱者だからこその、毎日を送っている。
ちなみに俳優陣はかなり豪華で、芸人さんもいい味を出している。
みな、おもしろおかしくも、人生を一生懸命生きている。
「楽しい嘘をついてみたい」と監督が言っていた。
嘘に塗り固められたような物語だけど
暖かくて、人情味に溢れた話だった。
どうせつくなら、みんなが幸せになるような嘘がいい。
バカとはさみは使いようとは、言葉があるが
どんな人たちでも、何かしら役割があるのだ。
この主人公の武士は、仇討ちを、あることに変えてみせた。
やり方しだいで、クソをモチに変えることだってできる。
そういえば、この時期話題に挙がる
赤穂浪士たちもこの映画には出てきている。
彼らは、みごとに仇討ちによって花を咲かせた。
主人公の仇討ちは花よりもなお、意味のあるものになったんだろうか。
結局主人公は、仇討ち以外のものを選ぶことになるのだが、
親の仇討ちを、こうやってわりきることも難しい。
桜が散るのは来年も咲くことを知っているから、と言う言葉があったが、
またいつか咲くなんてことを、僕らはわからない。ただ信じるだけ。
目の前にある確かなことを追いかけるほうが楽だし、
この主人公には、目の前にある仇討ちこそ、武士らしい行為なんだろう。
だけど、きれいな桜を眺めて、その花が散った後に
また美しい桜を待ちながら、日々を生きていくことも
生き方の一つではあるなと思った。
臆病で弱いからこそ、見えてくるものもあるんだなと感じた。
がちがちに固められた、正しいとされる姿、生き方もそれは美しいが、
生きるための知恵を上手く使い、
一般的におよそ正しいとされないようなことをしても
多くの人が、幸せになれるならいいことかもしれない。