『失はれる物語』 乙一

失はれる物語

この前読んでいた『ZOO』とは打って変わって。

タイトルと表紙から、少し連想できたように、ホラーではなく

儚げで、幻想的で、美しく、ロマンチックに。

この作品も短編集で、

Calling You

失はれる物語

手を握る泥棒の物語

しあわせは子猫のかたち

ボクの賢いパンツくん

マリアの指

ウソカノ

特にお気に入りは「しあわせは子猫のかたち」

簡単に言えば、自分の世界に閉じこもっているような

学生の男と幽霊の話で、どこかで聞いたような話でもあるのだけど

物語の雰囲気が好きで、優しくて、幸せに満ちている。

でも、絶対的な別れが感じられて、その間の日常が、

とてもすごく好きになれた。

「Calling You」と「傷」は以前読んだことがあったけど、

改めて読むと、やっぱりいい話だなって思った。

昔これが収録されていた本を売った自分に、何故にと問いたい。

タイトルでもある「失はれる物語」は、

とても残酷で辛い話ではあるけど、優しくも感じられた。

『ジョニーは戦場に行った』のような植物人間になってしまう話だが、

ジョニーよりかは、絶望感、悲壮感は無く、

安心して読めたというと嘘になるけど、だいぶ自分の心は楽だった。

総じては、乙一という人は、想像力に溢れていて、

強い人というより、弱い人の心を描くのが上手いと思った。

何が強くて、何が弱いとかは、よくわからないが、

その弱い人の心の強さを思った。

そう書くと、その弱い人とは強い人ではないかと思うが、

なんて言えばいいのだろう。

マイノリティとなるのか、世間的に軽く扱われているとなるのか、

よくわからないが、とにかくそんな風に感じられた。