『夜の蝉』 北村薫

夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)  夜の蝉

季節はずれの本を読むのも乙なもので。

雪の積もる日に、夏の鮮やかな本を読みました。

前回読んだ『空飛ぶ馬』の続編になる『夜の蝉』

『空飛ぶ馬』の表紙には、髪を切りすぎた、子供のような私がいて、

この『夜の蝉』の表紙には、少し髪が伸びた成長した私がいる。

そう、成長ということもこの本の大きな要素かもしれない。

朧の底

六月の花嫁

夜の蝉

という3篇から成り立つ物語であるのだけど、

タイトルにもなる夜の蝉では、とりわけ成長した、

いや、成長というほどのことでもないかもしれないが、

ゆっくりと着実に大人へと変わりつつある私が見られた。

世の中には、悪意が潜んでいる。

だけど、思いやりだとか、尊敬だとか、優しさも確実にある。

ごく普通の日常だとしても、多くの様々な謎がある。

そんな謎を体験して、日常を積むことで少女は大人へと変わっていく。

そして、この本を読んで、なんとなくではあるが、

風情があるということを感じた。

探偵役となる円紫さんが噺家であるということや、

お祭りのシーン、神社のシーンもあるからか。

ゆっくりと過ぎていく私をとりまく日常に、

風情を感じた。

風情とは、長い時間を経て大自然によりもたらされる物体の劣化や、本来あるべき日本の四季が造り出す

儚いもの、質素なもの、空虚なものの中にある美しさや

趣や情緒を見つけ、心で感じるということ。(Wikipediaより)

という意味があるという。

様々なことで溢れる世界で、

儚いもの、質素なもの、美しさや趣や情緒を見つけ、

私は心で感じとり大人になっていくのだろう。

そしてそんな私の近くで、

友人の姿や、親や姉の姿、円紫さんの優しい微笑みが浮かぶ。