『月が100回沈めば』 式田ティエン

月が100回沈めば [宝島社文庫] (宝島社文庫 C し 2-2) 月が100回沈めば

思えば、僕は小さい頃から普通の人間だった。

普通に、お金があり、ごく普通の家庭に育ち

普通に友達がいて、たくさん遊び、

普通に嫌気がさして、何か特別なものになりたがったり……

でも、ふと思う。

「普通」ってなんなんだろう?

大多数を占めるもの。みんなと同じ規格。

でも、社会によってそんなもの変わる。

じゃあ、社会が決めるのか。そんなことはないはず。

人の心にあるはずだ。なんでそんなこと言い切れる。

じゃあ、真ん中なことだ。

そして、またくるくる僕の中で考えがめぐる。

「普通」ってなんだろう?

そんな「普通」と向き合うことになるのが、今回読んだ本だった。

調査会社のアンケートに答えるアルバイトをしている、

自分を普通だと思っている主人公の少年、耕佐。

そのバイトの規則は一つ、アルバイト同士は知り合ってはいけない。

しかし、ひょんなことで知り合ってしまい友人になったアツシが消えた。

心配した耕佐が、アツシの行方を、

探偵じみたことをして、様々な人物と出会いながら追っていくという、

とりわけ、目新しい話ではない。

まあ、普通といえば普通の話だ。

ここでの、僕にとっての「普通」は、よくあること。

この話では「普通」という言葉と「意味」という言葉が印象的だった。

とりわけ意味には、物事に意味を与える、意味づけるということを思った。

それを表している言葉が、ヒロインに当たる役割で出てくる弓という少女の、

探偵は世界に意味を与えるのが仕事よ
だと思う。

色んなことに意味があるはず。「普通」の意味だってある。

ちなみに、タイトルの「月が100回沈めば」も、

読んでいくと、ちゃんと意味があるとわかっていく。

多くの意味がある。自分だけの意味もある。

月の存在に意味を持たせようとした少年がいた。

1円の価値に意味を持たせる少女がいた。

既製服に意味を持たせる、大人がいた。

多くの意味についても、僕は色々考えるようになった。

耕佐は、普通の意味を、物語で考えていく。

そして、様々な出来事から、自分の普通の意味を掴み取っていく。

まさに、青春ミステリというところ。

この話で気にいった、エピソードがある。

バイトのアンケートで耕佐が答えたもの。

あなた自身を一言であらわしなさい

答え(耕佐)

そんなの、無理―

そこまで読んできた過程で

この答えの心境を思うと、傑作だと感じた。

僕も就職活動で、こんな問に何度も答えた。

でも、ずっと心の中で思っていた、そんなの無理だ。

普通ってなんだろう。普通とはどうあるべきか。

僕の中にある普通は、こういうことだと、なかなか答えられないが、

僕の中の普通は、これまで生きてきて作られた自分の価値観で、

ちゃんと意味が与えられてできたものだと思う。たぶんだけど。

そして、僕にとっての普通とは、

僕の中の意味づけられた価値基準に沿って生きているということ。

そう考えるようになってきている。

この普通は、また変わっていくかもしれない。

だって、普通であることなんて、実はよくわからないんだから。