『リプレイ』 ケン・グリムウッド

リプレイ (新潮文庫) リプレイ

もしも人生やり直せたら……

そりゃ、考えたことはなんどもあるけど、

そんなこと考えたって、無駄だってことぐらいわかっている。

時間は、前にしか進んでいないんだからね。僕の人生では。

とはいっても、妄想の中では過去の自分の行動を変えてみたりして、

ありえたかもしれない、もう一つの人生を思い浮かべる。

それは楽しいことだけど、本当の人生の前では圧倒的に無力で、

すぐにそんな妄想は忘れてしまう。

でも、もし本当に過去に戻れるとしたら……

この『リプレイ』はそんなの妄想話。

過去に戻る、しかもある時点まで時が進むと、再び過去に戻るという、

人生が繰り返されるという奇妙な運命の話。

よくあるSFなんだけど、上手い話が考えてあると、やっぱりおもしろい。

多くの人が、人生をやり直せたらと一度は考えたことがあると思う。

誰もが思うことだけに、半端な物語じゃ皆が満足できない。

その一度は考えたそれぞれの物語に、匹敵する物語が考えられないと、

成功はできないジャンルの小説だと思う。

奇抜なアイデアも、あっと唸るような時間のトリックも、

この小説には、なかったけど、

何度も繰り返される時間の流れの中での人の意思。

希望、あるいは絶望、生きる意味、今の大事さ……

そんな抽象的なことが、とても印象的だった。

人生観とでも言うのかな。

物語はもちろん面白かった。

SFとしても、ラブストーリーとしても、

でも、それ以上に人生についてとても考えさせられた話だった。

個人的には、この本を原作にした日本のドラマ

「君といた未来のために」よりも好き。

自分の中でかなり好きなドラマで、相当はまったのだった。

小説は、エンターティメントとしてはドラマより浅いし、謎も解明されていないが、

とても壮大で、幻想的で、深くて、苦しくもあり、楽しかった。