『新世界より』 貴志祐介

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貴志さんの作品を読むのは『硝子のハンマー』以来で

過去ログを遡ってみたらおよそ4年ぶり。

完全ミステリーだった『硝子のハンマー』

そして今作は、現代から遥か未来を描くSFファンタジー

そういう触れ書きはするけど、

物語の舞台は、宗教的、土着的なものが感じられるオカルトチックな世界。

主人公の少女のおよそ20年もの長い長い物語。

ページも1000ページを超える、まさに大作。

この物語では人間は呪力という力を持っていたり、

動物達の生態系は、ものすごい変化を遂げていたり、

挙句の果てには、人語を話すバケネズミという奇妙な生き物がいる。

そして遥か過去の文明の中心だった機械は、まったく姿を消している。

別世界の物語のようなこの本だったが、

次第に明かされていく、封印された人類の過去。

閉鎖的な世界で管理されていて、

まるで籠の中の鳥のようだった主人公たちが、

世界の真実へと触れていき、広がる物語は圧巻。

作者もじっくりとこの世界の下地を作っていて、

細かい設定がこの不可思議な世界を理由づけている。

そこで繰り広げられる、少年少女の物語は、

壮大なスケール感を持ち、時代を超えての

人間の愚かさを説いているかのような教訓じみたものも感じられ、

新世界の寓話のようだった。