『78』 吉田篤弘

78 (小学館文庫)  78

自分の頭の中のものを、文章にするってことは誰にでもできるのだろうけど、

それを商売にしてしまう人のことを僕は尊敬する。素晴らしい才能だ。

そういうことを本人に言うと、才能なんかじゃないよ

なんて答えるかもしれないが、立派な才能だ。

僕なんてこのブログを見ての通り、支離滅裂なことしか書けないし、

4年も続いてるのに、いまだに書くってことが難しい。

てきとうなことしか書いていないのに、それなのに難しい。

僕の場合、話すことさえも苦手なので書くなんてもっと無理。

最近本当に自分の思いを書く、話すってこと、

外に向けるってことが難しく思える。

胸の中では流れるように出てるのに。

今まで普通にできていたことができなくなっている。

眠れない夜に、今までどうやって自分が寝ていたかと悶々するあの感じ。

『78』の感想を書くつもりが、こんな感じで変なことを考えてしまい

なかなか書けない。今までどうやって感想書いていたのか。

良かったとか、面白いとか、ぞくぞくした、とかそんな感じにすれば楽なんだけど、

この話はそんな感じでなく、物語が複雑ってわけでもないのに、

いざ感想を書こうとすると、何をどう書こうか迷ってしまう。

夢を見て、その瞬間ははっきりしていたはずなのに、

すぐに肝心なところがぽっかりと抜け落ちてしまうように。

全体の輪郭はなんとなくわかるのだけど。

この『78』は僕にとって夢物語みたいなもの。

とっても良い夢なのだけど、肝心なところが抜け落ちている。

その昔、世界は78回転で回っていた
何のことやらと思う、この本の紹介文。

実際のとこは何てことなく、昔のレコードの回転数が78ということだという。

今のレコードは33か48回で回る。

昔のレコードは実にゆっくりしている。

そのことを意識するように、ゆったりと物語が語られる。

本当にゆったりと、でもちぐはぐに。

レコードのブツっとするあの音を表してるように感じる。

物語の始まりには、ハイザラとバンシャクという少年が終点を目指す。

終盤ではシンとクローディアという男女が終点を目指す。

物語の最後ではジングルという女性が音楽の終わりを考える。

レコードが正確に音楽を記録するならば、

音楽の終わりも、また正確に記録されていると悟ると、

音楽は永遠に頭の中で残っていると彼女の夫が答える。

そして「めでたし、めでたし」とでも言い、

母親が絵本をパタンと閉じ終えたかのように、

実に良い余韻で物語が締めくくられる。

思えば僕も子供の頃、絵本の話はよくわかってなかったはずなのに、

今でも、なんとなく頭の中に話が残っている。

その時感じていた思いが、今『78』を読み終えてある気がした。

結局のところ何にもわかっていないし、色あせていく思いでになるのだろうけど、

何となく、ずっと残っていくような物語だった。