『沙門空海 唐の国にて鬼と宴す』 夢枕獏
更新していない間読んでいた本のことを、しばらく書いていきたい。
まずは、怪しげなタイトルの歴史伝奇小説から。
弘法大師の名でも有名な空海の若き日の冒険を描いた、フィクション。
作者の古の時代への誇大とも思える想像に文章が負けていない改作だと思う。
それを支えているのは、やっぱり実在した空海の数々の逸話だと思うので、
作者もさることながら、空海という人物は偉大な人だ。
衰退をたどり始めた唐の国に、遣唐使として派遣された、
まだ留学僧だった空海と、日本でのいわゆるエリートの橘 逸勢の2人をメインに
文化、宗教、友情、愛そして中国独特の怪奇幻想を交えながら進む物語は、
エンターテイメント性にあふれている。
史実も交えながら、こうだったらさぞ面白かろうという作者の思いが伝わってくる。
唐の国に渡った2人が、巻き込まれる怪しげな事件。
空海が密を得ようとする過程、現地の様々な人物との出会い。
そして化け物。
「唐の国にて鬼と宴す」というタイトルは誇張でなく、
まさにその通り。
白居易や楊貴妃といった有名な名前も大きなキーパーソンに。
この辺りの名前が出だしてからは、スケール倍増。
わくわくが止まらない。
虚しく往きて実ちて帰るこの言葉は空海が、恵果和尚に贈った言葉だけど、 橘 逸勢が思っている言葉だとも思う。空海に対して。 中国の歴史はほとんど知らない自分にもわかりやすく、 そして何より面白く読めた。 歴史は語らない。 だけど、想像はできる。 人の想像力は、すごいなと感じられた。