『ヴィーナスの命題』 真木武志

ヴィーナスの命題 (角川文庫)  ヴィーナスの命題

大きな物語が欲しいのよ

何とも心踊らされる言葉なんだろう。

僕が小説というか、創作の物語に惹かれているのは、大きな物語が欲しいからだ。

結局のところ、現実は小さな物語の固まりでしかないので、

創作の物語に自分を投影して、夢を見ている。

でも、今のご時世に大きな物語なんて、ましてや日本では難しい。

たとえ、物語の中だって。

ヴィーナスの命題の文中のこの言葉に惹かれるのは、

壮大な物語みたいな響きに間違ってとってしまうからなのか。

スリードとすら呼べないほどの、酷い勘違いだけど、

言葉の響きって重要だと感じた。

ある高校の自殺事件がきっかけとなり、次々と起こる事件に翻弄され、

真相を追っていく少年少女達……というのが物語だ。

なんとも典型的なミステリー小説だけど、

漫画のキャラクターのようにキャラ付けされた人物が、

上手くマッチしていて青春小説の味付けがされている。

はっきり言ってしまうと、目まぐるしく変わる視点の変化が

どうにも読みにくくて、読み進めるというより、読み解いていくという感覚だった。

ある意味、それはミステリーの醍醐味なんだけど、

1回よむだけでは、わからない。

2回読んでも、真相はよくわからない。

恐らく、こういうことだったんじゃないかという曖昧なイメージしか得られないので、

カタルシスには欠けるけど、ささやかで綺麗な物語だった。

大きな物語になりえた物語は、小さな物語で締めくくられていた。

これは悪いことなんかじゃない。