『銃口』 三浦綾子

銃口 上 (角川文庫)  銃口 下 (角川文庫)

自分に正直に生きたい。

欲とかそういうことじゃなくて、正しいと思うことを貫けるということを。

多くの人がきっと自分の考えに忠実に生きてはいないと思う。

社会人になって、組織っていうものの一員になってみると強く思う。

昔「言いたいことも言えないこんな世のはPOISON」という歌があった。

平和な今の世の中でさえ、こんな風に歌われている、

この『銃口』は、そんな今よりもさらに厳しい時代だった

いわゆる戦前~敗戦までを主に描いた、教師竜太の生涯の物語。

戦争ものは、やっぱり重たい。

戦争を知らない僕にも当時の匂いを感じさせる重圧なストーリー。

常に不安の足跡が聞こえてきて、安らぎも転落の前触れかのよう。

最後まで息も入れられないようだった。

ただ、この『銃口』は戦争はテーマであるけれど、

人間というものが、もっと大きなテーマになっていると感じた。

主人公の竜太は、その純粋な心から多くの人々を尊敬して生きている。

その人たちのように自分も生きたい。自分もそうありたい。

竜太の憧れた人たちは、どの人も心の広く、あたたかい優しい人々ばかりだった。

特に僕が心に残る竜太のその人たちを思う台詞としては、

要するに木下先生は、正しいと思うことを、

只一人ででも、やり遂げる勇気のある人間だということなのだ

自分にとって最も大事なこの自分を、自分が投げ出したら、

いったい誰が拾ってくれるんだ。

自分を人間らしくあらしめるのは、この自分しかないんだよ

などがある。

最も憧れていた坂部先生と同じ教師になって、理想に近づこうとするが、

生活を脅かす治安維持法による弾圧、そして赤紙による徴兵。

少年時代から青年になり教師に、そして兵士になった竜太の生涯は、

まさに激動の時代に生きた物語だった。

平和な時代があっという間に崩れ去り、

おとずれる戦時中の描写は胸が締め付けられるよう。

だからか、その中で人の優しい部分の描写があると

他人のしかも創作なのに、涙が出そうに嬉しくなる。

そしてやっぱり恋の要素も強くて、恋が愛に変わる辺りからは、

愛というのが、とても力強く感じられた。

最近、韓国と朝鮮の問題などで戦争という言葉が、いっそう近く感じる。

これは漫画の受け入りだけど(南国少年パプワ君より)

「変だな仲良くできないなんて、ケンカするよりよっぽど簡単な事じゃないか」

という言葉が響く。

それぞれ主義主張が違う、教育が違う、文化が違う……

平和ボケした発言だけど、そんなことで一般の人が傷つくことが正しいのだろうか。

この『銃口』は大学生の時、中国語の授業でドラマを見せてもらい知った。

当時、中国人の反日感情問題が話題に上がっていて、

中国語をとっている他の生徒でさえ、中国人は嫌いだ、怖いと言っていた。

今もその情勢はあまり変わっていない。

結局、同じことを繰り返すだけの気もするが、

そんな時だからこそ、誰も差別せず、仲良くなれないものかと思う。

世界中は無理かもしれないけど、近しい人の間だけでも。

そういえば、小学生の頃、戦争のことを知る勉強があった。

社会だったか、道徳の授業だったかさだかではないけど、

家のすぐ近くにある防空壕を調べたり、曾祖母に戦争の話を聞いたりした。

今の小学生たちも、同じようなことをしたりしてるのだろうか。

もはや戦後ではないけど、忘れてはいけないことだと思う。

物語の最後に「廻り道」というエピソードがある。

結局のところ、家に帰りたかった、教師に帰りたかったのだと思った。

そして戻ってこれたのだと思うと、万感の思いがこみ上げた。