『壬生義士伝』 浅田次郎
壬生義士伝(上下)
ここまで他の誰かのために生きることが
できる人物が現代にいるだろうか。
少なくとも、僕にはできない。
今の時代に武士なんていない。
だけど、僕らは武士の姿を知っている。
文章であったり、映像であったり、
過去の遺物を現代まで、伝え続けた人が、残した人が
いたからこそ、僕らは武士の姿を想像できる。
この小説の主人公吉村貫一郎は、まさに武士だった。
一途に貫いた、その人生。
家族のために、刀を振るい、血を流し、
仕送りのため守銭奴と蔑まれても
家族という主君のために、全てを捧げた男。
激動の幕末という時代で最期まで、義を貫いた男。
僕には、その姿が眩しすぎた。
くどいほどに泣かされた。
もういいだろ、と思うほど活字の波が襲ってくる。
新撰組を扱い、その中心に近藤でも土方でも沖田でもなく
吉村という、庶民の武士を置いたこの作品。
恐らく、一番泣かされた小説だった。