『壬生義士伝』 浅田次郎

壬生義士伝 上   文春文庫 あ 39-2 壬生義士伝 下   文春文庫 あ 39-3壬生義士伝(上下)

ここまで他の誰かのために生きることが

できる人物が現代にいるだろうか。

少なくとも、僕にはできない。

今の時代に武士なんていない。

だけど、僕らは武士の姿を知っている。

文章であったり、映像であったり、

過去の遺物を現代まで、伝え続けた人が、残した人が

いたからこそ、僕らは武士の姿を想像できる。

この小説の主人公吉村貫一郎は、まさに武士だった。

一途に貫いた、その人生。

家族のために、刀を振るい、血を流し、

仕送りのため守銭奴と蔑まれても

家族という主君のために、全てを捧げた男。

激動の幕末という時代で最期まで、義を貫いた男。

僕には、その姿が眩しすぎた。

くどいほどに泣かされた。

もういいだろ、と思うほど活字の波が襲ってくる。

新撰組を扱い、その中心に近藤でも土方でも沖田でもなく

吉村という、庶民の武士を置いたこの作品。

恐らく、一番泣かされた小説だった。