『夜に猫が身をひそめるところ Think』 吉田音

夜に猫が身をひそめるところ </p>
<p>Think―ミルリトン探偵局シリーズ〈1〉夜に猫が身をひそめるところ Think―ミルリトン探偵局シリーズ〈1〉"

どこまでも謎を解かないミステリー・ノヴェル
なんともおかしな帯に惹かれたが、

クラフト・エヴィング商會プレゼンツならば納得。

彼らが紡ぎだす物語は、謎を解くのでなく、

空想して自ら思い描くものだから。

作者は吉田音で、クラフト・エヴィング商會夫婦の娘

ということになってるが、文体や物語の作り方から考えると、

間違いなくクラフト・エヴィング商會その人だろう。

それだけ、彼らの話にはクセがあり、ファンタジーに満ちている。

相変わらず、空想するのがとてもおもしろいお話。

第一この話に出てくる、ミルリトン探偵局でさえ、推理はしない。

空想でなく、推理とは言うが、やっぱり空想なのだ。

確かに彼らにとって、空想でなく推理なのだが、

その空想を推理と言い、進めていくことが、この探偵局の意義であるから。

そしてその空想は、僕らの頭上にある大空のように

絶え間なく、広がっていく。

広がりすぎて、わけがわからなくなるけど、それでいい。

だって、彼らは決して謎を解こうという気など、まるでないのだから。

猫には、猫にだけが行ける場所がある。

だから、人間に猫のことがわかるはずもない。

でもただ、考えることに、追いかけることにする。

そうすれば、自分たちもいつか猫が夜に身をひそめる場所に

たどり着くことができるかもしれない。

ifの世界を彼らは、追い求めている。

そして、それこそ僕がクラフト・エヴィング商會の本が

とても好きなところだったりする。

とはいえ、物語はいつのまにか猫から離れて、

人間の世界へと移行していく。

空想が、どこまで遠くまで続いていくのか見守っていたつもりだったが、

これもどこか誰かの空想かもしれないが、人の世界へと移り変わっていた。

作者は、最後に自分がたどり着いたところは

人と人とが結び合い、

しっかりと息づいている世界

と語っていた。

夜に身をひそめる猫が、多くの謎とともに運んできたのは、

そんな当たりまえの、謎を解かない探偵局が出した

唯一の答えだったのかもしれないと思った。

そしてそんな世界が、何より大事なんだろう。