『ハルビン・カフェ』 打海文三

ハルビン・カフェ [単行本] / 打海 文三 (著); 角川書店 (刊) ハルビン・カフェ

3ヶ月前に、ヘッドホンを変えてから持っていたCDを聞きなおすのが楽しい。

なんとなくもやっとした印象の曲が、霧が晴れたように感じられるものもあったり

アレっ?ここでこんな感じで音が鳴ってたのかと、

ハっと感じさせられることまであった。

さすが2万円のヘッドホン。こだわると違う。

だけど、今まで聞いてきた音の方が好きな曲もあったりして

はっきりとさせられることが良いことばかりじゃない。

そういう意味だと、この小説もモヤモヤに包まれていた序盤の方が好きだった。

はっきり言って僕みたいな頭の悪いやつには、難解な小説だった。

近未来で、無国籍でハードボイルドな乾いた雰囲気に誘われながら、

謎がひしめく物語を早く解き明かしたいと読みだすのだけど、

この人物はどんな立場のやつでとか、

この名前、前にも出てきたな。誰だったかなと、

ページが何回も戻る、戻る。

多人数の視点から語られる物語は、中々先に進まない。

物語も、一人の正体不明の男を取り巻く周囲を

ゆっくり埋めていくように、じわじわ進むのだから。やっぱり進まない。

だけどその分、じっくり腰を据えて物語に対峙できた。

物語はいわゆるクライムノベルにあたるものだと思う。

ただ、そこにカタルシスは存在しにくくて、

最後まで雲がかかったようなモヤモヤした印象を拭いきれなかった。

話の大筋は理解できたが、この物語の中心人物にあたる男。

つまりは主人公の男が、どうにも捉えきれなかったからだ。

福井県西端の新興港湾都市・海市。

大陸の動乱を逃れて大量の難民が押し寄せ、

海市は中・韓・露のマフィアが覇を競う無法地帯と化した。

相次ぐ現場警官の殉職に業を煮やした市警の一部が地下組織を作り、

警官殺しに報復するテロ組織が誕生した。

警官の警官による警官のための自警団。彼らは「P」と呼ばれた

「BOOK」データベースより

マフィアに、テロに身を置く警官たち「P」

Pを追うキャリア・ノンキャリアなど様々な立場の警官。

幼い頃から娼婦として生きなければいけなかった女性。

そして物語の中核を担う謎の男。

この男はまだ少女だった娼婦の女性を助け出し

その後の生活も全て援助することも描かれている。

ここまで書くとネタバレだけど、この当たりは約600ページもある

この物語の比較的早い段階で明らかになっている。

男は正義のヒーローではなく罪人である。だけど悪漢ではない。

この当たりは解説を読むとしっくり来たのだけど、

この男の強烈な個性に魅せられてしまうという一文は納得がいった。

でも、この男は最後まで読んでもよくわからない。

むしろ途中で、それまで自分が思い浮かべていたイメージから

どんどん離れていくのだけど、それでも惹かれていくのは

やっぱり、読ませる物語であり作者の腕なんだろう。

単なるピカレスクロマンでなく、ハードボイルドな小説でなかった。

作者いわく「神の悪意をマネしてみようと思い立った男の物語」

最後まで男の視点からは語られなかった物語は、神の救いはあったのだろうか。

神の、いや、悪の美学とも違う、悪のこだわりを感じた話だった。

結局そのこだわりが何かは、はっきりとわからなくとも。