『ビーナスブレンド』 麻生哲郎
岡山―島根―鳥取、の旅も終えて、自宅でまったりとブログ中。
旅行記は、いずれブログにでも載せるとして、久しぶりの、読書感想文。
「ビーナスブレンド」
それは、この小説のタイトルであり、コーヒーの名前であり、
映画「ホテルビーナス」のノベライズ版である。
映画の脚本家が、そのまま小説に仕立て上げたのが、この本。
僕は、映画のホテルビーナスをけっこう気に入っていたが、
忘れかけてきた今日このごろ、本を見つけたので読んでみることにした。
内容としては、映画とだいたいは同じわけなのだが、
映画より、ゆったりとした印象を受けた。
それは、自分のペースで物語を進めていけるということもあるが、
文章が、優しくて、静かな印象を受けるということもある。
思ったより、チョナンが演じていた人物(この本ではカンという名)が、
目立ってはいないが、語り部として全体をまとめていて、
ホテルビーナスの住人達の物語という印象が、強く出ている気がする。
何かしら、心に痛みを負ってしまった人々の、優しい再生の物語。
本の中で、このホテルの住人たちの時間は、
止まってしまっているように語られているが、
読み終えてみると、完全に静止しているのでなく、
本当にゆっくりだけど、少しずつ動いているんだなと思えた。
だって、彼らは生きているんだから。
死んでいるようにだとしても、生きているんだから。
少しずつ動き始めて、やがてこのホテルから飛び立つ時が来るんだろう。
映画だと、洗濯物が風に揺れるシーンをよく思い出すのだけど、
このホテルは風が流れているのだと、今感じている。
傷ついた鳥たちが、ゆっくり羽を休めて、
いつか、この風に乗り、いずれ飛んでいく場所が、
このホテルビーナスだと思う。
そう考えると、やっぱり優しい気分になれる。