『空飛ぶ馬』 北村薫

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)  空飛ぶ馬

いや、それなら馬が空を飛ぶわけですよ
馬が空を?

この馬が空を飛ぶというのは比喩表現。

でも、そんなような事件があり、主人公の女子大生が尋ねたことに、

この物語の探偵に当たる役の、噺家の円紫さんが応えた言葉だ。

日常の中にある、不可解なできごと、それがこの物語の謎にあたる。

密室トリックや、殺人事件もない。

それこそ世の中の、ちょっと見たり聞いたりしたことでの

不思議に思うことを、解き明かしながら、

人生の喜びや悲しみ、人間関係など、

ごくごくありふれたテーマをすがすがしく語っている。

半径1m以内で若者は生活したがるという。

この小説は、それこそ半径1mの小さな出来事かもしれないが、

とても美しい人間ドラマかもしれないと感じた。

織部の霊

砂糖合戦

胡桃の中の鳥

赤頭巾

空飛ぶ馬

物語は5つの短編からなっている。

そして物語中にこんな言葉がある。

比喩や抽象は、現実に近づく手段であると同時に、

それから最も遠ざかる方法であろう。

お化けもでないし、馬だって飛ぶわけがない。

でも、これらのタイトルの比喩は、事件にぴったり当てはまる。

だけど物語の事件の現実からすると、かなり遠ざかる。

それでも、馬が空飛ぶわけですよと答える。

そういうこともあるのですよと。

世の中目を凝らしてみれば、色んな不思議に溢れているのだと。

毎日が新たな発見で溢れていると、そんな風に感じた。

比喩や抽象は、そんな風に感じる人たちの作りだした表現かもしれない。