『ゴールデンスランバー』 伊坂幸太郎

ゴールデンスランバーゴールデンスランバー

首相暗殺という言葉が出ていて、

正直、またかと思った。

『魔王』のようなのがまたかなと。

『魔王』はかなり好きな話なのだけど、

また政治がらみなおは勘弁だと思った。

それに首相暗殺では、ケネディ暗殺関連の方が

ミステリアスだと思い、わざわざ創作を読むべきなのか迷った。

そのせいで、発売後もなかなか手が出なかったけど、

やっぱり、伊坂さんの作品にはいい意味で裏切られてきたので、

買って読んでみることに。

話は、首相殺害したとされる男の逃亡劇。

伊坂版の「逃亡者」と呼べるような話になっていた。

相変わらずの洒落た会話と、思わず顔がほころぶ多くの複線。

いつものようなミステリと同じように感じるけど、

ミステリ要素より、圧倒的にエンターテイメントが溢れている。

伊坂幸太郎が娯楽小説に徹したらという謳い文句は、本物だった。

本当に、一言で逃亡劇の話なんだけど、

その映画じゃないわけで、派手なアクションシーンはない。

じゃあ、何が見所だというと、

人間模様であったり、巨大な権力の動き等になる。

人間の最大の武器は、との問いに

「習慣と信頼だ」

と応える人がいれば、

「思い切りだよ」

と応える人もいる。

他にも、冷静な行動であったりとあると思う。

そしてそれが、最大の欠点にも変わる。

とても、辛くて悲しいことで、

最終的には、逃げるための知恵こそが武器なのかもしれないと感じた。

そんな悲しい話なのだけど、ラストの章で、

だいぶ救われた気がした。

「たいへんよくできました」そう言いたくなるくらいに。