『秋の花』 北村薫

秋の花 (創元推理文庫)  秋の花

『空飛ぶ馬』『夜の蝉』から、日常に潜む闇を匂わせていたけど、

この『秋の花』で、その闇が「私」へと静かに牙を見せた。

円紫さんと私シリーズの3作目、季節は秋へと。

とうとう殺人事件に私が関わってくる。

といっても、直接絡むわけではないが、私にとっての非日常が現れる。

物語は、日常と非日常が交差して進んでいく。

でも、物語からの雰囲気は以前と変わらず、

あくまで日常の物語という印象を受けた。

だけど、とても切ない。

今回は前回までの短編形式と違い、一本の長編となっている。

そして探偵役の円紫さんの登場は、とても遅い。

そういうわけで、円紫と私シリーズというが、

私の物語という部分が強い。

そのため私が成長していくということがよく見えた。

まあ、元々私の物語なのだけど。

帯の文の

生と死を見つめて(私)はまたひとつ階段を上る
という言葉がピッタリきた。

物語は切なくて悲しい。

だけど同時にとても優しい。

許すことができなくても、救うことができる。

人間は、とてももろい。

その一方で、すごく強い部分がある。

生と死、日常と非日常、弱い強い。優しいと残酷。

多くの二面性が見られた。

次の巻でこのシリーズは終りとなる。

自分の人生を振り返ることはできても、戻ることはできない。

この本でそんなことを感じたけど、

本という物ならば、読み終わった後、

もう一度、同じ道を歩くことができる。

終わってしまうのは切ないけど、

新しい喜びが訪れそうな気がした。

とりあえずは、次の『六の宮の姫君』を。