『スキップ』 北村薫

スキップ (新潮文庫)  スキップ

思い出は大切だけど、思い出を作っていくことの方が、

ずっと大切なことだと思う。

なんだけど、思い出がなくて、自分が存在している。

自分が自分の思い出を知らずに、他人が自分の思い出を知っている。

これは、とんでもなく残酷なことだと思う。

だったら、自分は何なのだと。

スキップとは、時を大またで飛び越えてしまうような意味だ。

17歳の私が目覚めた時、42歳になっていた。

まだうら若い私が、中年おばさんになっているだけで、悲劇だろう。

僕と同年代の女性でも、年をとるたび、

おばさんになったとよく愚痴る。

それでもその子には、年をとるまでの記憶が、思い出がある。

でも、この主人公には、その記憶がない。

話はとても残酷なものだと思う、悲観的でもあると思う。

だけど、すごく優しいイメージを受ける。

それは、やっぱり北村さんの文章から感じるんだと思う。

円紫さんと私シリーズで感じていたものと同じものを。

一言で言えば、「救われる」

主人公は「強い」人物とも取れるけど、

僕には、そんなことなく普通の人物に見えた。

ただ、受け入れなければならないと悟っただけ。

とても当たり前なこと。

選んだわけでもなく、ただ今があると悟っただけ。

私の記憶がなくても、私であるのには変わりない。

周りに散らばる多くの事柄を選ぶことはできるが、

選んで、それを物にできることとは別だ。

掴みきれなかった多くの物、

留めておくことができない思い出、

多くの事柄を、飛び超えてしまったけど、

私であること、今があることをわかっていれば大丈夫だろう。

足りない頭を絞って、色々考えたが、

当たり前のことをできることは「強い」

と呼べることかもしれない。