『カレンダーボーイ』 小路幸也
三億円を、ふんだくれ!
この説明だけだと、あの有名な三億円事件を思うだろう。
でも、この物語はタイムトラベルの話でもあったりする。
しかも2人の幼馴染の。
家族の話で、恋の話で、男の友情の話。
2006年→1968年
小路さんの作品らしい、古き時代へのノスタルジー
それに加えて、現在の大切な家族が描かれている。
どちらも無くすには、惜しすぎる存在。
今は、一番大切だけれど、あの頃は・・・という気持ちは捨てきれない。
今年、僕の通っていた幼稚園が廃園になるという。
今のご時世では仕方がないが、納得しきれないし、
忘れられるはずもない。ちょっと泣きそうになった。
話は戻って、このタイムトラベルは、
2006→1968→2006→1968・・・
というように、寝て起きたら変わるというもの。
このタイムトラベルの話は、
なぜ過去に戻ったかという点も重要な要素。
これは、どんな仕組みでとかいうことでなく、
どんな想いがあったかということ。
タイムトラベルにつき物なのが、タイムパラドックス。
もちろんこの話でも、それはついて回ってくる。
必ずつきまとうのは、過去を変えると未来が変わる。
それは、得ることでもあり、失うということでもある。
単に1968年でノスタルジー(といっても僕は生まれてない)
を感じるだけでなく、ラストでの変わってしまった未来。
もしくは現在によるノスタルジーが、とてつもなく悲しかった。
物語では細かい点で、気になるところはある。
タイムトラベルや、3億円事件での描写。
3億円事件シーンは、大雑把というか端折った感じさえも。
何故かと思ったけど、こうすることでラストの余韻が、
変わってくるようにも思えた。
そういうところを書き込めば、
エンターテイメント作品ともなり得ただろうに、
そこを省くことで「失われる」ということを強く感じられた。
タイムトラベルに関しては、謎めいたほうが、ファンタジー。
決してサイエンスティックでなく、良かったかもしれない。